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大阪高等裁判所 昭和25年(う)1379号 判決 1950年11月28日

被告人

互佯貿易会社

主文

原判決を破棄する。

本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人は原判決は被告人が苛性ソーダ(固形品以下同じ)を統制額を超えて販売した事実を認定し昭和二十三年十月二十二日付正誤訂正を摘示してその統制額を適用したのは違法であると主張するので調査するに原判決は被告人が昭和二十三年七月二十八日から同年九月九日迄の間に八回にわたつて苛性ソーダを所定販売業者統制額一トン二万四百二十六円を超えて販売した事実を認定し、昭和二十三年六月二十三日物価庁告示第三百三十九号同年十月二十二日付正誤訂正を適用しているのである。而して右告示第三百三十九号によれば原判示苛性ソーダの統制額は一トン二万八百五十六円であり、同年十月二十二日官報「正誤」において同告示第三苛性ソーダ(固形品)次のように改めると記載して本件の統制額を原判示二万四百二十六円と訂正しているのである。従つて本件「正誤」の実質が告示の改正に該当することは一点の疑もないところである。そもそも統制額の告示は一般国民が之に従うことを要求するが故に公布施行されるものであるから、「正誤」によつて告示を訂正する場合には当該基本告示の誤が条理上何人にも容易に首肯せられ、後日において之を訂正しても訂正前に国民が当該告示を守る上に格別の支障なかりし場合のみに許さるべきであり、且つ正誤という事柄の性質上基本告示の公布後能う限り速かに為さるべきである。本件のように訂正前には何人も之を守るに由なき実質上は統制額の改正を原告示公布後四ケ月を経過して為す場合においては須らく告示改正の方法によるべきである。何となれば統制額の指定は主務大臣の権限に属すること物価統制令第四条の明定するところであるからである。従つて、「正誤」による統制額の指定は何等権限なき者(総理庁事務官)の行為であつて統制額の指定としては無效なること論を待たない。仮りに本件「正誤」が適法であるとの説を採るにしても何人といえども改正前において将来改正さることあるべき告示の統制額を守るというが如きは思いも及ばないところであるのは当然の事理であるから、被告人の昭和二十三年七月二十八日から同年九月九日迄の行為に対し犯行後の昭和二十三年十月二十二日改正の統制額を適用した原判決は被告人に不能を強いるものであつてこの点から考えても違法である。

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